手術開始時間は14時となった。
午前中に手術をするイメージだったので午後開始というのは意外、待ち時間が長いという事は緊張する時間も長いということだがやむを得ない。
朝、8時か9時くらいから点滴が開始された。
これで歩くにも、点滴を持ち歩かないといけないので、本格的に病人になった気がする。
そして朝食は絶食。
同室にいる患者さんには食事が配られている中、自分には何も配られない。
痔瘻の手術の準備では、さっと脱げるようなオムツのような下着と、血栓を防ぐための圧迫が強い靴下を事前に履く必要がある。
一方で、予想していた浣腸や、肛門の剃毛、尿道カテーテルはなく、ひたすら午前中はベッドの上でスマホなどを見てダラダラ過ごすことになった。
そんな中、看護師ではない病院のスタッフがベッドに来て、「ベッドの上(にある酸素の酸の字が書かれたバルブ)に器具を装着しますね」言ってきて、器具を装着した。
何のために装着するのかと言う説明はなく去っていったので、酸素吸入が必要になるという事は、やはり全身麻酔なのだろうかとまた不安が増した。
栄養補給の点滴を受けているので、お腹も空かないし、喉も乾かない、またトイレに行きたくもならない。
ただし、下剤を飲んだ分は出し切ってしまおうと、点滴をガラガラ持ち歩きながら頑張ってトイレに行って大きい方の用をたしてみたりする。
そして、いよいよ運命の14時近くになった。
でも全く看護師さんが呼びに来る気配がない。
5分、10分と時間が過ぎていく。
そんな中、14時15分くらいにたまたま同室の患者さんのところに来ていた看護師さんの携帯が鳴って、手術部からの連絡結果を告げられた。
「14時45分開始だそうです。じゃあ、それまでにトイレに行って、着替えをして、14時40分ぐらいに一緒に手術室まで行きましょう」
いよいよである。緊張マックスである。
トイレはさっき行ったから、T字パンツに履き替え、血栓を防ぐ靴下を履く。
この靴下、さすがに圧迫することが目的できつくできていて履くのが大変であった。
引き出しにスマホなどをしまい金庫の鍵を閉め、手首につける。
この鍵は持っていっていいのかと看護師さんに聞いたら、そちらは私が預かりますねと言う返事だったので預けた。
14時40分きっかりに、看護師さんとともにエレベーターで歩いて手術室まで向かう。
エレベーターの中では、手術は初めてですかー?という緊張をほぐすような会話の中で、やはり僕は麻酔の針のゲージはどれぐらいですかねと聞いてみたりする。
看護師さんからは、ちょっと痛いですよ、という手術直前に最も聞きたくないコメントをもらったりした。
手術部がある3階に着くと、いわゆるご家族の方はここまでという感じの手術部の自動扉ゲートをくぐり、中で手術担当の看護師さんや麻酔科医師が4名ほどが笑顔で迎え、挨拶をしてくれた。
病室看護師さんとの引き継ぎが行われる間は、椅子に座っていてくださいねと言われたので、座って待っていると、手術室看護師さんから頭髪用のネットをつけてくださいと言われ渡されたので、頭につける。
見た目的にも一気に手術モードが高まった。
そして、昨日の説明の時とは異なる麻酔科医師がにこやかに挨拶してくれたので、ドキドキしながら縋るように下半身麻酔ですかと聞くと、下半身麻酔ですよと回答してくれた。
これで気持ちは少し落ち着いた。
でも手術は目前なわけで、リラックスには程遠い変な感覚。
そして看護師さんから、名前を言ってください、また今日の手術はなんですか、と言う本人確認の質問があり、自分の名前と痔瘻の手術ですと伝える。
このあたりは、過去に市立大学病院で、患者取り違え手術事件があったことの教訓を踏まえてしっかり行われているんだろう。
そして、行きましょうと言われて、奥にある3番の手術室に向かった。
手術台に横から座ると、早速そこで座ったまま病院着を脱ぐように言われ、全裸になった。
ただし看護師さんがタオルや毛布のようなもので前を覆ってくれているので、別に見られても構わない裸を見られることなく手術台の上に横に寝る。
続いて、早速、下半身麻酔のために右を向いてエビのように体を丸めてくださいと言われ、指示に従い、背中を横に突き出す。
そして、消毒薬が塗られ、もう一回塗りますと念のために二度塗りされた。
いよいよ大緊張の下半身麻酔の注射である。
看護師さんから、痛い時は体で反応するのではなくて、言葉で言ってくださいねと声掛けされて、さらに緊張してしまう。
まずは麻酔のための局所麻酔が打たれた。
ほとんど痛くない!
チクっという感じもないくらいでびっくりした。
この理由は、本来であれば25ゲージの針で打つところをさらに、細い27ゲージの針を使ったことらしい。
僕の海老反りを抱えている目の前にいる看護師さんと、背後にいて麻酔を打っている麻酔科医の会話の中で、先生優しいですねーと看護師さんが、言っていたのが聞こえた。
お気遣いに恐縮である。
とにかく繰り返しあらゆる人に痛いのが嫌だと言っていた僕に配慮してくれたのだ。
続いて打たれた本番の麻酔は針が刺さったところは局所麻酔のおかげで痛くなかったが、中を針が進む時は少し痛かった。
言われた通りに正直に痛いですとその場で伝えた。
さらにその後は骨に響くような感覚が数秒続く続く。針が刺さる痛さではないので、我慢はできるが、一応、骨に響きますねー、とこれも口に出して伝えてみた。
でも全体的には全く採血と同じ程度の痛さの範囲で完了した。僕の痛みへの恐怖が杞憂の中麻酔は終わった。
足がじんわりとあったかくなってくる。
事前にYouTubeで学習した通りの麻酔の効き方だ。
試しに足指を動かそうと思ったら、まだまだ全然動くし、海老反り態勢からうつぶせに寝るのも難なくできる感じであった。
続いて、麻酔科医がアイスノンのようなものを肩に当ててこれ冷たいですかと聞いてくる。冷たいですと答える。
次はお尻に当ててこれ冷たいですかと聞いてきた。かすかに冷たさを感じたので、その通りに伝えた。
そして足指もまだまだ動くので、もしかして麻酔が完全に効いてないんじゃないだろうか、このまま手術はじまちゃったらと心配になり、一応そのことも伝える。
すると、お尻周りを中心に麻酔がかかるようにしてますから、大丈夫ですよという回答があった。
うつぶせ寝の状態なので、頭を右に向けるのか左に向けるのかどっちにしようかと考える。
そんな僕の動きを見て麻酔科医師がどちらでもいいですよと言ってきた。
続いて看護師さんが頭の枕だけじゃなくて、お腹あたりにも枕を1個入れたら楽だから入れましょうかと言ってくれたので、腕を立ててお腹の下に空間を使って枕を入れてもらった。
腕を含め上半身は全然動くのだとこの時改めて認識した。
このタイミングで執刀医の先生がこられたと思う。
いやー、遅れて申し訳ありませんと謝ってきてくれたので、よろしくお願いしますと伝えた。
後から聞いたところでは、緊急手術があり、僕の手術開始が遅れていたようだ。
執刀医が僕のお尻周りの体勢を確認し始めているのがわかる。麻酔が効いているので痛みはないが、器具で押されたり、足を広げられたりしているのはなんとなくわかった。
その間、また頭を枕につけて右を向いたり左を向いたりどっちがいいかなと考えたりしていると、目の前で麻酔科医が鎮静剤液を握り締めているのが見えた。
これを点滴に入れられたら眠くなるんだろうな、よし何秒意識が保っていられるか試してみよう。
よし、、、
と思ったところで、病室のベッドで目が覚めた。手術は終了していた。
時間も空間もワープした。でも鎮静剤のせいかあまり考えられず不思議さもあまり感じていなかった。
後から振り返ると、まるで全身麻酔で受けたような感覚だ。
そして足元を見ると、両足には布団乾燥機のようなものがつけられて、ブシュ、ブシュと血栓予防のためか足をマッサージしてくれている。
また左腕の点滴に加えて、右手の人差し指には心電図モニターのようなものもつけられていた。
これらの器具が装着されたことも全く記憶にない。
そして下半身はやはり意識がない。
足の指は、、少し動かそうと思えば動かせる感じ。
そして肝心の肛門患部も全く痛みは感じない。
あ、と思って動く両腕で確かめてみたところ、尿道にはカテーテルは入れられておらず、ほっとした。
この後はやたらと眠いのか、こんこんと眠っては起き、また夜もこんこんと眠っては起きのような感じを繰り返していた。
それでも、肛門周りの痛みはほとんどというか全くなかった。